これはフィクションです

32歳。男性。自営業。独身。

2020年10月30日9時06分

母方の祖父が去年に死んだのだけど、なんか遺産もらえるらしい。
おばあさんとお母さんが相続のことをやってるのは知っていたけど、自分がもらえると思ってなかったので驚き。
 

おばあさんが、

「おじいさんが一生けんめい働いたから、孫にまで遺産をあげられる」

って言ってたけど、本当にその通りだと思った。


母「だから◯◯おじさんとか嫌いだったもんね」

祖母「あの人はフラフラしてるから。お父さん、『ああいう男はダメだ』ってよく言ってた」


(ハハハ、『ああいう男はダメだ』って俺も言いそう)

と2人が話しているのを聞いて思った。
孫の俺が知らないおじいさんのエピソードには共感するものが多い。
 
 
俺のお父さんがおじいさんに結婚の挨拶に行ったときの話。
 

おじいさん、「あの男で大丈夫か?」と迷ったらしいんだよね。

最後はおばあさんが、「ちゃんと大学院まで出て、ちゃんとした会社で働いているからいいんじゃない?」と言って折れたらしい。
 
 
めっちゃわかる(笑)
俺もお父さんみたいな男が「娘さんと結婚させてください」と来たら絶対に迷う。

俺のお父さんは真面目な人だけど、おじいさんみたいに強烈な芯が通ってる感じじゃないから。

たぶんおじいさんの「あるべき男の姿」みたいなのとは違っていたんだろう。俺の理想の男像とも違うから分かる。
 
 
また、俺のお父さんが会社で定年近くになったころに、

「やっぱり社長にはなれなかったか」

と言って、おじいさんは笑っていたらしい。まあ、うちのお父さんに社長は無理だよね(笑)
 
 
 
というおじいさんの価値観は、孫である時は知らなかった。

「男なんだからこうしなさい」と特に言われた覚えはない。

でも大人になって、なんだか同じことを俺も言い出し始めている。
 
 
 
おじいさん、俺が大学に入ったあとにボケてしまったのだが、これはまだ元気だったときの話。
 

確か俺は高校生とかで、おじいさんの家に遊びに来ていた。
夕方、俺が本を読んでいると、

「ちょっと玄関まで来なさい」と呼ばれた。

なにかと思って靴を履いて家の外に出ると、おじいさんがいて、
 
 
「きれいな月が出ている」
 
 
と空を指差した。
 
見上げると、たしかにきれいな満月で、「きれいだね」と一緒に眺めた。 
 
 
「お月さまを見るたびに、おじいちゃんが『がんばれ』って言ってたなと思い出しなさい」

と言われた。なんと返していいか分からず「うん」とだけ言って、しばらく2人で黙って月を眺めていた。いま思えば、あれが別れだった。
 
 
 
個人の一生に為すべきことがあるように、なにか世代を繋いで為すべきこともあるのかもしれないと、おじいさんと同じことを言い出しはじめた自分を見て思う。
 
 
 
 
 
いま思い出した。父方の祖父にも印象的な思い出があった。
 

当時大学生だった俺がやったイベントが、おじいさんも住んでいる俺の地元の新聞に取り上げられた。
 
俺のお父さんは喜んで、それを一緒におじいさんにも見せに行こうと言った。
 
 
その時の俺は「このイベントは今の日本を変えるために必要なんだ」ぐらいのことを思っていたが、みんな新聞に載っていることを喜ぶばかりでそのことを分かってくれないので、

(どうせお前らはそういう表面的なことしか理解できないよな)

と若干ふてくされていた。なのでおじいさんの家へ行くのも渋々だった。


しかし、その新聞を見たおじいさんは一言、
 
 
「なるほど。種をまくわけだな」
 

と言った。伝わった、と思った。
 
 
そうそう、種をまくんだよ。たぶん、というか絶対、まいただけで芽は出ずに終わるんだけどさ。でもいいんだ。結果が出なくてもいい。俺はただ、自分が信じたことを少しでも現実に起こしたいんだよ。
 
 
この時も、なんかびっくりして言えなかったけど、そういうことをおじいさんに言いたかった。でもこの父方の祖父もそんな話ができる前に死んだ。
 
 
 
 

なんか繋がっているといいね、と思う。
 
将来、俺も死んであの世に行った時、あの2人にだけは、自分が生きてやってきたことを話したい。