これはフィクションです

32歳。男性。自営業。独身。

2020年10月3日午前1時3分

久々に少女漫画を読みたくなった。昔、妹のをこっそり読んでいた。

 

芦原妃名子の『砂時計』が好きで、同じ作者で『Bread&Butter』というのがあったから買ってきた。すごい良かった。



その作品のなかに、



「一生懸命やってきた事ってさ、そう簡単に自分の中から消えてくれないね」



というセリフがあった。めっちゃわかる〜。昔、同じようなことを思った。



それまで頑張っていたことを「二度とやらない」と決めて、新しいことを始めたときだった。




ああ、「二度とやらない」ってこれ、嫌いになっているってことだな。その頑張っていたことを。



確かに嫌いになっていた。今でもやりたくない。



これ俺がなにをやっていたのか、具体的なものがないと話が分かりにくいので「パン屋さん」だったということにしておきましょう。はい、私はパン屋さんでした。




「パン屋なんかやってるから俺はダメなんだ!!」

 

と思って、パン屋をやめた。



それまでは大好きだったし、自分の一生の仕事はこれだとさえ思っていたのに。



嫌いになって辞めたのはパン屋だけじゃない。

他にもたくさん、好きだったものを嫌いになってやめている。





ここに自分の直近の課題がある。

 

上手になにかをやめられたことがない。いつも最後がグチャグチャになる。



ひとつのことを長く続けるのが本当にダメなタイプで、

 

「パン屋ってこんな感じなんだね」

 

とだいたい分かったら、まあまあ美味しいパンが自分で焼けるようになったらもういい。次の新しいことを始めたい。

 

美味しく作れるようになったパンを繰り返し焼くことで満たせる好奇心は少ない。学びが薄いものを繰り返していてもしょうがない。




風のように現れて、風のように消えたいのだ。



もっとカタチのない自分でいたい。自分に輪郭を与え、固定させようとするものはなにもいらない。



安定と安心はいらない。他者からの信頼も諦める。



流転と変幻のなかにこそ我は在り。





こんな自分だからこそ、上手にやめることは気持ちよく次に行くために超だいじ。






好きなものをやめるのは難しい。だから無意識で嫌いになっていたのではと思う。

 

どんな事でも追求して深く知ればその魅力に気づける。そして、限界にも気づける。



「こんなことを続けていても意味はない」



と、パン屋だけじゃない、これまでやめてきた全てのことで思った。




「パン屋なんて毎日ただパン焼いているだけじゃん!」



こんな仕事に価値はないと全てを否定した。自分がやってきたことさえも。



ただ毎日、パンを焼く。

少年よ、それが本当はいちばん難しいことなのじゃ。

 

まあそれも最近はなんとなく分かる。俺のなかの老師が出た。






もう少し上手にやめたいもんだね。嫌いになってしまう前に。まだ好きでいられるうちに。



我ながら、なにかを始めるのは上手だなと過去を振り返って思う。

 

急にスッと現れて「いいですね。私もやりましょう」が言える。そして本当にやれる。

 

新しいことを始める怖さなど感じたことがない。めんどくさいと思うことはあるが。

怖い?はて、なんのことやら。



いいね。登場は完璧だ。風のように現れている。

 

あとはやめ方。マジでやめ方だけ。