既存のものを壊したい。
そういうモチベーションで、俺は事業や仕事を考えるが、そういう発想でやっている事業をあまり見かけない。何かを壊したいと思っている人間は少ない。
特に救いたい人はいない。
世に広めたいものもあまりない。
しかし、壊したいものはたくさんある。
「新しい世界を作りたい」と言う人間はいるが、
「今の世界を壊したい」とは他人の口から聞いたことがない。
俺がなにか事業を見て「つまらない」と思う時は、その事業が何も壊さないからだと気づいた。
ユーザーの生活がちょっとだけ便利になる。果たして、そんな事業の価値とは。
いま俺が携わっている事業が、既存のものを壊す事業だと認識している人間は少ない気がする。
ユーザーはもちろん、同僚たちもそうだ。
みんな、自分たちは新しいものを作るのだと思っている。
それは正しい認識だ。実際に俺たちは、新しいものを作ろうとしている。
そしてその新しいものは、新しいが故に、今あるものを破壊する。既存のものの価値を消滅させる。
自動車と鉄道が出現して、街から馬車が消えたように。
新しいもの。これにも色々ある。
より早く走る馬車、これも新しいものだと思える。
しかし、それでは馬が人間を引く構図はなくならない。
より早く走る馬車のようなものは、俺のなかでは新しいものではない。
自動車や鉄道のような今までとは次元の異なるもの、既存を破壊するほど格段に人の生活を変えるものを、俺は「新しい」と賛辞したい。
今あるものを何も壊さない。それを俺は新しいと言わない。
多くの人に支持されてきたものを真に破壊することは難しい。
また、破壊はできても、新しく取って代わることはさらに難しそうだ。
俺が携わっている事業は、既存のものの価値を小さくし、ユーザーにそれを使うことを疑わせることはできても、取って代わることはできないと思う。
また、いま壊そうとしているものには「権威」というものが存在している。
これが非常にやっかいだ。
権力は奪った瞬間に消滅するが、権威はすぐには消えない。
俺がどれだけ苛烈に攻めあげても、あと20年は権威を持ち続けそうだ。しぶとい奴め。
新しいものを作りたいのと、今あるものを壊したいのとでは、心持ちは大きく違う。
古いものが壊れるのは、新しいものができた後であるし。結果、報酬が得られるのが遅い。
というわけで最近イライラして、もっと直接に壊す仕事を探していた。
しかし直接に「お前を壊す」と宣戦布告すると反撃に合うので、
「新しいものを作ります」と無害な顔をして活動する方が、結果として壊すのも早いかもしれない。
そう自分を納得させて、今日も俺は新しいものを作る。