これはフィクションです

32歳。男性。自営業。独身。

2020年10月9日午後1時26分

既存のものを壊したい。

 

そういうモチベーションで、俺は事業や仕事を考えるが、そういう発想でやっている事業をあまり見かけない。何かを壊したいと思っている人間は少ない。

 

特に救いたい人はいない。

世に広めたいものもあまりない。

 

しかし、壊したいものはたくさんある。



「新しい世界を作りたい」と言う人間はいるが、

 

「今の世界を壊したい」とは他人の口から聞いたことがない。



俺がなにか事業を見て「つまらない」と思う時は、その事業が何も壊さないからだと気づいた。

 

ユーザーの生活がちょっとだけ便利になる。果たして、そんな事業の価値とは。




 

いま俺が携わっている事業が、既存のものを壊す事業だと認識している人間は少ない気がする。

 

ユーザーはもちろん、同僚たちもそうだ。

みんな、自分たちは新しいものを作るのだと思っている。

 

 

それは正しい認識だ。実際に俺たちは、新しいものを作ろうとしている。


そしてその新しいものは、新しいが故に、今あるものを破壊する。既存のものの価値を消滅させる。

自動車と鉄道が出現して、街から馬車が消えたように。

 

 

 

新しいもの。これにも色々ある。

 

より早く走る馬車、これも新しいものだと思える。

 

しかし、それでは馬が人間を引く構図はなくならない。

 

より早く走る馬車のようなものは、俺のなかでは新しいものではない。



自動車や鉄道のような今までとは次元の異なるもの、既存を破壊するほど格段に人の生活を変えるものを、俺は「新しい」と賛辞したい。

 

今あるものを何も壊さない。それを俺は新しいと言わない。



 

 

多くの人に支持されてきたものを真に破壊することは難しい。

 

また、破壊はできても、新しく取って代わることはさらに難しそうだ。



俺が携わっている事業は、既存のものの価値を小さくし、ユーザーにそれを使うことを疑わせることはできても、取って代わることはできないと思う。

 

 

また、いま壊そうとしているものには「権威」というものが存在している。

これが非常にやっかいだ。

 

権力は奪った瞬間に消滅するが、権威はすぐには消えない。

俺がどれだけ苛烈に攻めあげても、あと20年は権威を持ち続けそうだ。しぶとい奴め。




 

新しいものを作りたいのと、今あるものを壊したいのとでは、心持ちは大きく違う。

古いものが壊れるのは、新しいものができた後であるし。結果、報酬が得られるのが遅い。

 

というわけで最近イライラして、もっと直接に壊す仕事を探していた。

しかし直接に「お前を壊す」と宣戦布告すると反撃に合うので、

「新しいものを作ります」と無害な顔をして活動する方が、結果として壊すのも早いかもしれない。

 

そう自分を納得させて、今日も俺は新しいものを作る。